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2017.06.27

「一流の中の一流」と一般人のメンタルの差|香川真司が逆境から何度でも甦る理由


何度でも甦るトップアスリートのメンタリティとは?(写真:ITARU CHIBA)

何度でも甦るトップアスリートのメンタリティとは?(写真:ITARU CHIBA)

“トップ中のトップ”になる人の発想

インタビュアーとしてトップアスリートと向き合うと、彼らのメンタリティが、自分のそれとは遠くかけ離れたものであることを痛感させられる。

たとえば、陸上・短距離のケンブリッジ飛鳥。リオデジャネイロ五輪の4×100メートルリレーでアンカーを務めた彼は、“あの”ウサイン・ボルトとほぼ横並びでバトンを受け取った瞬間にこう思ったという。

「勝てば金メダルだ!」

たとえば、バドミントン女子日本代表の奥原希望。リオデジャネイロ五輪・シングルスで日本人初のメダリストとなった彼女は、高校時代に思い描いた“理想の自分”を追い続け、ストイックなトレーニングを積み重ねてきた。それがまねできれば、誰でもすぐにダイエットに成功できる――そう伝えると、彼女は笑った。

「私に言わせれば、『どうしてできないの?』という感じなんです」

たとえば、水泳界のレジェンド・北島康介。2014年冬、1年半後のリオデジャネイロ五輪出場を目指していた彼に「挫折経験は?」と問うと、北島は少しの迷いも見せずにこう答えた。

「そもそも『挫折』って、心が折れて続けられなくなることですよね。僕は今も続けているから、挫折経験はない」

人より優れた技術やセンス、身体能力があれば、おそらくその競技におけるトップレベルにたどり着くことはできる。しかし日本一、あるいは世界一という“トップ中のトップ”を狙うなら、それだけでは足りない。

ボルトを相手にしても“勝利”をイメージできる。高校生の頃に思い描いた“理想の自分”とストイックに向き合い続けられる。「挫折経験は?」と聞かれて「ない」と即答できる。そんな彼らの姿勢に、“トップ中のトップ”しか持ち得ない特別なメンタリティを感じ取ることができる。

共通項はもうひとつある。

“トップ中のトップ”は、自身が生まれながらの天才肌であることを全面的に否定する。たとえばサッカー界で「黄金世代」と称される1979年度生まれの代表格、元日本代表の小野伸二は少年時代を次のように振り返った。

「自分が1番だと思ったことはありません。だって、生まれた地域で注目される存在だったとしても一歩出ればもっとすごいヤツがいて、範囲を広げればさらにすごいヤツがいるでしょ。たとえば、市の選抜チーム、県の選抜チーム、地域の選抜チーム、世代別の日本代表とステップアップしても、上の学年を見ればもっとすごいヤツがいる。世界を見れば、もっととんでもないヤツはいくらでもいる」

何となく湧いたイメージは、次の言葉で明確になった。

「たぶん、同じ学年だけを見て自分と比べるという感覚がないんだと思います」

ケンブリッジも奥原も北島も、おそらく同じ感覚を持っているのだろう。周囲から圧倒的な才能を持つと思われる彼らと、仮に一般人の代表とした場合の自分との違いは、どの世界でもよく言われる「上には上」という言葉のとらえ方にある。後者は「上には上」を感じて自身の可能性を見限るが、前者は「上には上」を感じて何としてもそれを超えようとする。

だから周囲から見た姿がどれほどの天才でも、本人がそれを自覚することはない。インタビューを通じてよく耳にする「自分には才能がない」という彼らの言葉は、言葉に特別な意味を持たない社交辞令の謙遜ではなく、特別なメンタリティを象徴する本音だ。

「才能はなかった」

サッカー日本代表の10番を背負う香川真司も、やはり同じニュアンスの言葉を強調した。

「よく勘違いされてしまうんですけど、僕は本当に、飛び抜けた才能を持っていたわけじゃないんです」

「小学生の頃も、中学生の頃も、高校生の頃も、周りには自分よりうまい選手がつねにいました」

「どちらかと言えば、チーム内では2番手か3番手。つねにライバルが僕の先を行っていて、僕はそいつにはなかなか勝てなかった」

言わずと知れた日本代表の10番である。10代にして日本代表に選出されたエリートでもあり、もっと言えば、サッカー選手としては世界にその名を知られる数少ない日本人のひとりだ。しかし「特別な才能はなかった」と、香川は言い切る。

「ただ、誰かと自分を比較してテンションが下がったり、『俺はもうアカンな』と落ち込むことは一度もなかった。逆に、負けを認めたくない、負けたくないという気持ちのほうが強くて、相手のことは認めるけど、絶対に負けたくない。『今はおまえのほうが上かもしれないけど、いつか絶対に追い抜いてやる』と、いつもそう思っていました」

中学時代の同級生が言う。

「あの頃の真司はめちゃくちゃうまかったけど、特別かと言われるとそうではなかった。でも、後にアイツがすごい選手になった時は『やっぱりな』と思いました。だって、アイツ、ずっと“上”ばかり見ていたから」

やはり香川も、「上には上」という言葉のとらえ方が違うのだ。

いつか必ず、追い抜いてやる

香川は2010年にドイツ・ブンデスリーガのボルシア・ドルトムントに移籍し、翌年にはリーグ制覇の立役者として一躍、世界的な脚光を浴びた。2012年にはサッカー選手なら誰もがうらやむ世界的なビッグクラブ、イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドに引き抜かれ、サッカー界における“トップ中のトップ”の仲間入りを果たした。日本代表では10番を背負い、名実ともにエースとして大きな期待を寄せられている。

それでも、香川の心が達成感で満たされることはない。

「世界には、とんでもない才能を持った選手がたくさんいるんですよ。でも、自分よりすごい選手がいたら『いつか必ず追い抜いてやる』と今でも思える。だからこそサッカー選手を続けられているんでしょうね。自分よりすごいヤツに対して、勝ちたいと思えるかどうか。いつか追い抜いてやると思えるかどうか。子どもの頃からずっと、僕はそればかり考えてきましたから」

5月に閉幕した2016-17シーズン、香川は所属クラブのボルシア・ドルトムントで満足な出場機会を得られず、苦しい時間を過ごした。日本代表でも思うような結果を残せず、表情はどこか曇りがちだった。

シーズン後半はコンディションを上げて本来のパフォーマンスを取り戻したが、6月8日に日本代表の一員として臨んだ親善試合シリア戦で肩を脱臼するアクシデントに見舞われ、W杯アジア予選・イラク戦の欠場を余儀なくされた。

思うようにいかないもどかしさは、誰よりも本人が感じているだろう。しかし「いつか必ず追い抜いてやる」というモチベーションが消えないかぎり、香川はまた、きっと輝く。

「2014年ブラジルW杯の悔しさは、味わった人間にしかわからない部分もあると思うんです。だから次の大会で結果を残して、あの悔しさを晴らしたい。プレッシャーはハンパじゃありません。でも、そこで勝って日本代表の一員として輝きたい」

「上には上」がいる。ただしそれは、「超えられない壁」ではない。その言葉にただ純粋に自分と向き合う “トップオブトップ”のメンタリティを感じられたからこそ、日本代表の10番が、もう一度派手に輝くことを確信している。

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細江 克弥 :スポーツライター

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提供元:「一流の中の一流」と一般人のメンタルの差|香川真司が逆境から何度でも甦る理由|東洋経済オンライン

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