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2020.09.16

寿命が「運命任せ」から「選択」の時代に変わる訳|「老いなき世界」はどこまで科学されているのか


最先端科学によって変わる「寿命」のカタチとは?(写真:Ravil Sayfullin/PIXTA)

最先端科学によって変わる「寿命」のカタチとは?(写真:Ravil Sayfullin/PIXTA)

世界20カ国で刊行され、全米ベストセラーの『LIFESPAN(ライフスパン):老いなき世界』日本語版が、9月16日、いよいよ刊行される。
ハーバード大学遺伝学教授をつとめ、老化研究の世界的権威でもあるデビッド・A・シンクレアが、人類が「老いない身体」を手に入れる未来がすぐそこに迫っていることを示した衝撃の書だ。
日本における老化研究はどこまで進んでいるのか。シンクレア研究室で老化研究に取り組み、現在は慶應大学医学部で老化生物学研究チームを率いる早野元詞氏が語る。

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何歳まで生きるかを「選択する」社会へ

ご存じのように日本はすでに超高齢社会です。医療費も高くなり、どれだけ健康に生きられるかが注目されています。その中で『ライフスパン』著者のシンクレア教授が目指しているのは、「200歳まで生きる」ということや、若返りなどですね。

『LIFESPAN ライフスパン:老いなき世界』

『LIFESPAN ライフスパン:老いなき世界』

『LIFESPAN ライフスパン:老いなき世界』特設サイトはこちら ※外部サイトに遷移します

カロリー制限やアミノ酸制限などに取り組んだとしても、人間の寿命の限界は122歳だと言われています。それを超えるには、細胞のリプログラミングや、遺伝子編集などの創薬に頼るということになりますが、そこを突破することで200歳を目指せると考えられています。

このとき、社会的には「200歳まで生きたいか」という選択が生まれます。200歳まで生きたい人、短く元気に50歳まで生きたい人、病気を患ってもかまわないから自然でいたい人、いろいろな考えの方がいらっしゃいますからね。

お金も重要になってきます。シンクレア教授もそうですが、アメリカではスタートアップ企業が関わって老化研究を行い、サプリなどを販売しています。

お金を払って200歳生きる選択をするか、もしくは、カロリー制限やアミノ酸制限など、自分でできる選択をするか。いずれにせよ、自分で人生を選択するということが必要になります。

エイジングについては、すでに1930年にカロリー制限が効果を発揮し、マウスでは寿命が延長できたという論文が発表されています。

しかし、それから90年経ちますが、みなさんそれほどカロリー制限をしていませんよね。

つまり、我慢をしてまで寿命を延ばすということは、一般的には受け入れられない。もっとラクをして寿命を延ばしたいという要望があるわけです。

1990年代になると、サーチュイン系の遺伝子が寿命やカロリー制限の責任を担っていることがわかり、2000年代には老化を抑える物質として、レスベラトロールやNMNなどが注目を浴びるようになりました。

早野元詞(はやの もとし)/慶應義塾大学医学部特任講師、株式会社坪田ラボ Chief Scientific Officer(CSO)。老化、エピジェネティクスが専門。DNA複製研究に従事し、2011年に東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程(生命科学)にて学位を取得。アメリカ・ハーバード大学医科大学院のデビッド・A・シンクレアのラボに留学後、2017年から現職。ANRI株式会社、株式会社慶應イノベーション・イニシアティブなどのベンチャーキャピタルでシーズソーシング業務に携わっている(写真:早野元詞)

早野元詞(はやの もとし)/慶應義塾大学医学部特任講師、株式会社坪田ラボ Chief Scientific Officer(CSO)。老化、エピジェネティクスが専門。DNA複製研究に従事し、2011年に東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程(生命科学)にて学位を取得。アメリカ・ハーバード大学医科大学院のデビッド・A・シンクレアのラボに留学後、2017年から現職。ANRI株式会社、株式会社慶應イノベーション・イニシアティブなどのベンチャーキャピタルでシーズソーシング業務に携わっている(写真:早野元詞)

NMNは『ライフスパン』にも書かれていますが、カロリー制限をしなくてもプロダクティブエイジング(歳を重ねても自分らしく過ごすことができる人生)が可能になるもので、サプリは日本でも販売されています。

最初の論文から100年近くかかって、ようやく何かを飲むことで老化を制御できるようになった。つまり、自分が今まで運命だと思ってきたことに、自分の手で変化を加えることができるようになったのです。さらに老化細胞や血液交換術などいろんなことが知られてきて、節制する、我慢するという時代から、もっと積極的に自己選択するものへと変化しはじめています。

そうした中で、資産家の老化研究への投資を含めてアメリカやヨーロッパを中心に老化研究が進んでおり、今後超高齢社会の日本でも老化研究や開発を支援する枠組みが増えていくことを期待しています。

日米の保険制度と予防意識の違い

日本人がアメリカ人より予防意識が低いのは、保険制度の違いが原因でしょうね。日本は国民皆保険制度がありますから、風邪を引いて病院で治療を受けても数百円で済みます。

しかし、アメリカでは数万円の治療費がかかります。今回の新型コロナでも、日本では1万円程度のPCR検査費用でもめていましたが、アメリカでは感染した高齢の男性が、1億円以上の治療費を請求されたという話がありました。でもそれはアメリカなら当たり前の話なんです。

アメリカ人は、普段から自分の健康を管理しておかなければ、破産して家族全員が路頭に迷うことになってしまう。だから、病院に行かずに、サプリや薬局で済ませる意識が日本より強く、長生きしたいというよりは、自分だけでなく家族の生活を守るためにも健康を管理し、予防するという意識が高いんですね。実際に行動に移せているかは別の話ですが。

サプリも、それがどういう役割を果たすのかということを自己選択しなければなりませんから、サイエンスのリテラシーも高く、自分で科学書を読み、かなり調べて知っているという人が多いです。

一方、日本人は「これ食べると元気になる、骨が増えます」という宣伝を見て、「よくわからないけど、安いし、飲んでおくか」というような具合です。自分で選択する、その選択に責任を持つという感覚が日本人は希薄だと思います。

ただ、今後、老化を自分でコントロールできるようになれば、日本の人たちも、自分で何を飲んで、食べ、どんなライススタイルを送っていくのかを取捨選択するという認識が強まります。そうなるともう少しファクトとサイエンスを意識するようになるのではないでしょうか。

グーグルが老化研究に投資する理由

日本では、商社などが科学的根拠に基づいたエイジングの制御というビジネスを始めていますが、まだ個人的に危機感を持ってエイジングに投資するという人は少ないですね。

2013年にグーグルが15億ドルを投資して、老化研究の企業カリコを作りましたが、あれは老化研究がアメリカにおいてビジネスになると見抜いての投資でしょう。アメリカの場合は民間会社がそれを保険適用すると言えば、マーケットとして成立します。

しかし日本の場合は、老化とともに筋肉が減少していくサルコペニアという症状が、2016年にやっと病気として認定されましたが、老化研究に関わる領域に、保険適用されていない疾患や薬がまだまだたくさんあって、マーケットにならないのです。

日本の保険会社も、健康の度合いに応じて保険料が安くなるとか、デジタルヘルスやAIの活用なども増えてきていますので、自分の健康状態を保険会社が把握して、自分でも健康状態を理解し、保険料が安くなるならがんばろうというようなアメリカ型も少しずつ浸透しつつあります。ただ、そもそも医療に大金を支払うという感覚が、日本人にはありませんからね。

しかし、日本でも健康寿命を延ばせる技術が出てくれば、どうしても人によって差が出てきます。

例えば、高齢出産について考えてみましょう。女性が何歳まで出産できるのか、男性が何歳まで子どもを作れるのか、これはエイジングの話です。通常は30代で高齢出産になりますが、高価なサプリを飲んでいる人は50代でも健康な子どもが産めるということになると、やはりお金のある人しか、余裕をもって子どもを作り、人生設計をするということができなくなってしまいます。

もちろん、いままでどおりを望むのもいいのですが、選択としてどう捉えるかという視点を持てば、単純に「老化研究はここまで来ているんだね」という理解だけでなく、自分自身のこととして受け止めることができるのではないでしょうか。そして、老化や寿命は「自分」のこととして受け取られがちですが、実際には自分の家族や社会にとっても大きな選択となっていくでしょう。

そして、お金がすべてという話でもありません。

例えば、メトホルミンという薬は、承認された安全性のとれている薬で、1剤5円程度と非常に安い。今までは、2型糖尿病の治療薬として使われてきましたが、どうやら癌を抑制し、脳の機能が改善している可能性もあるとわかってきました。

高価な薬を飲んだり、遺伝子治療を受けたりするという路線だけでなく、安い承認薬をうまく使ってエイジングを制御する方法もあるわけです。まずは何を飲むと、自分の何を制御できるのかを知り、高いものから安いものまで、どんな選択肢があるかを知ることでしょう。

それに、お金を使いたくないなら、自分でカロリー制限すればいいわけです。我慢もできないけどお金も払いたくないし、寿命は延ばしたいというのは、ちょっとわがままですよね。

さらに、健康長寿の時代になれば、人生の終わりを自分で選択するということもありえます。実際にヨーロッパには安楽死制度があります。こういった話には拒絶反応を示す人が多いのですが、日本人も衝突を恐れず、もっと人生や命を自分で選択するということについて、議論したほうがいいと僕は思います。

『ライフスパン』は、一見「サプリとかの話でしょ?」という表面的な理解になりがちかもしれませんが、社会構造全体と未来の選択を考えるための本と捉えてみると、違う視点が持てるのではないでしょうか。

「寿命」もプランニングしていく時代

日本では、まだまだ積極的にいろんなものを飲むという感覚は薄いです。宗教的感覚から来るものかもしれませんが、薬に対する拒否反応があるのは間違いありません。それに加えて、サイエンスのリテラシーの低さという問題があります。日本ではサイエンティフィックな日常会話はほとんどありません。

ただ、最近は日本の小学校も少しずつ変わってきて、勉強は「覚えるもの」ではなく「楽しむもの」だという風潮ができています。この流れで「サイエンスは楽しいものだ」という感覚が育つといいなと思いますね。

僕が代表理事を務める一般社団法人ASG-Keioが主催するオンライン・サイエンスフォーラム「Scienc-ome」では、高校生にも参加してもらい、若い世代がサイエンスを楽めるような活動もしています。

最近は、新型コロナの自粛生活の中で、自宅で筋トレをしてアミノ酸サプリを飲むことが流行っており、大丈夫かなと思いながら見ていました。エイジングの領域では、アミノ酸制限が常識なのです。エイジングは積み重ねでもあります。若いときの不摂生が、将来的に老化として進む。コロナの時代にアミノ酸サプリを飲んでいる人は、それが将来、脳や血管など、なにかの問題として出る可能性があります。

それを打ち消すための方法はもちろんありますが、自分のプランニングがないままというのはやはりよくないですね。そんな中、家族や社会を含めた自分の人生を、自分の考えで積極的に選択していくための最前線の方法が、『ライフスパン』には詰まっていると言えるでしょう。

「Scienc-ome」 ※外部サイトに遷移します

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提供元:寿命が「運命任せ」から「選択」の時代に変わる訳|東洋経済オンライン

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