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2019.02.12

日本の「精神医療」は患者をダメにしているのか |精神医療には社会のひずみが凝縮している


過剰な投薬はかえって患者を苦しめかねない(写真:kai/PIXTA)

過剰な投薬はかえって患者を苦しめかねない(写真:kai/PIXTA)

「患者のため」の身体拘束が招く死。処方薬の影響で体中に入れ墨をした女性、万引を繰り返した会社員や衰弱後に突然死した自閉症患者。担当医は患者家族から逃げ回り、「親の代わりに殴った」と開き直る。半世紀前と変わらない医療現場がある。『なぜ、日本の精神医療は暴走するのか』を書いたリサーチャーの佐藤光展氏にその実態を聞いた。

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リアルな患者の姿を見せていない

──にわかには信じられないような事例だらけです。

1970年に朝日新聞の記者だった大熊一夫さんが精神病院内での患者への暴力をルポして、社会問題になりました。1987年に精神衛生法が精神保健法へと改正され、改善されたと思っていたが、医療担当記者として取材していると、誰も開けない扉がある。好奇心から開けたら人がばたばたと倒れている。自分では“蘇生”できないので「これ、おかしいでしょ、助けませんか」という気持ちで書いています。臭い物にふたは一般的ですが、精神医療には社会のひずみが凝縮していると感じます。

──昨年8月に毎日新聞が、精神病院に50年以上入院している人が1773人いると報じました。

こうした状況を、多くの人はおかしいと感じるはずですが、そうなっていないのは、まさに患者を病院に閉じ込めて、リアルな患者の姿を見せていないから。ある精神科医に言わせると、従順ないい人だから何十年も入院しているわけで、世間が考える突然暴れ出すような人たちなら、暴動が起きて病院は潰れている。

──これだけひどいと、「極端な例だ」という声もあるのでは。

そういう反応は必ず出ます。ただ、メディアが取り上げるのは何であれ極端な例がほとんどです。殺人事件は年間約300件で年々減っていますが、報道しなくていいという話は聞きません。事件の背景にある社会の問題や被害者の命の重さは伝えなくてはいけない。それが、精神疾患の患者の場合なら、虐げられても一部だからいい、というのは理解できません。

──なぜ、考えられないような医療が続いているのでしょう。

医療は医者の見た目(視診)と検査の数値に基づいて行われますが、精神科は見た目がすべて。iPS細胞による治療がスーパーカーなら、精神医療は人力車。人力車だからダメ、ではないんです。患者の話を聞いて癒やせればいい。例えば「眠れてますか」に始まって、「そんなに仕事が大変なら会社と交渉しましょうか」というのが本来の精神科です。ところが、ろくすっぽ話も聞かずに「眠れない? じゃあ薬飲んで」となっちゃう。ここに大きな問題がある。

患者が半減してもやっていける

──話を聞かないのは診療報酬制度にも問題があるようですね。

佐藤 光展(さとう みつのぶ)/医療ジャーナリスト、探査ジャーナリズムNGO「ワセダクロニクル」シニアリポーター。読売新聞で15年間医療部に在籍、連載「医療ルネサンス」「ヨミドクター」を執筆。2018年退職しフリーランスに。著書に『精神医療ダークサイド』。(撮影:今井康一)

佐藤 光展(さとう みつのぶ)/医療ジャーナリスト、探査ジャーナリズムNGO「ワセダクロニクル」シニアリポーター。読売新聞で15年間医療部に在籍、連載「医療ルネサンス」「ヨミドクター」を執筆。2018年退職しフリーランスに。著書に『精神医療ダークサイド』。(撮影:今井康一)

お金に困ってない精神科の重鎮が開業して、1時間かけて患者の話を聞くと、大して薬を使わなくても1〜2カ月でうつ病が著しく改善したりします。じっくり患者に向き合っても報酬は変わらないので、ある種ボランティア。ここに矛盾があるのは確かですが、1人当たりの診察時間を5分から10分にして患者が半減してもやっていける報酬はもらっているはずです。逆に、稼ごうと思ったら数をこなして投薬になる。

──治さずに薬漬けにしたほうが儲かる構造ですね。

ほとんどの精神科医は治したいと思っている。ただ、検査や手術という方法がなく、あるのは薬だけ。また、医療の質を問う場合、どれだけ治したかという評価基準が必要ですが、精神疾患は何をもって治ったとするかが難しい。うつ病だと社会復帰でしょうが、会社に行ったらまた症状が出たという例は身近にあると思います。

──製薬会社による「うつは心の風邪」といううつ病の啓発活動が安易な受診を助長すると批判されたことがありました。

あのフレーズは、今思うとある意味正しかったという気がします。風邪の発熱などが体を休ませるための指令なら、脳の活動の低下も同じように疲弊した体を休ませるための指令かもしれない。

問題は、心の風邪や、それ以前のちょっと疲れていて眠れば回復するような人まで病気と診断して投薬してしまうことです。本当に必要な休息を取らないで薬だけ飲んでも治りません。その結果、「よくなりませんね、重症ですね」と薬が増え、副作用で患者が本来できることもできなくなってしまう。副作用に鈍感な医者はとことん鈍感で、症状の悪化と投薬の関係を疑ったりしません。

──医師の処方内容をチェックすべき薬剤師は機能していない?

もっと医者に「この処方はおかしい」と言わなきゃいけないけれど、門前薬局なんかは医者に干されるおそれがあって言えないというのはまだあります。また、睡眠薬などは長期間服用すると適正量でも薬物依存になりますが、処方が適正量だと言いにくいと思います。

──短時間診療に過剰投薬。患者を人として扱っていませんね。

精神医療関係者が患者をバカにしているというのは感じます。本書に書いた、夫のDVから逃れようと110番通報した女性が、精神錯乱者とされて、措置入院(編集部注:知事などの権限による強制入院)させられたのは好例です。警察官、保健所員、精神科医の誰もまともに女性の話を聞かず、レッテル貼りをして病院に入れてしまう。

犬猫のほうが大事にされている

──精神科医のうち一人は「措置というほどではありませんね」と言いながら「要措置」としました。

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なぜ、日本の精神医療は暴走するのか(佐藤光展 著/講談社/1500円+税/285ページ) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

石郷岡病院において、暴行がもとで患者が死亡したと看護師が起訴された裁判員裁判では、意味不明な理由により罰金30万円で終わり。医療現場のひずみを社会が正さないのです。精神疾患患者への社会の薄情さが医療現場に反映されている。犬猫のほうが大事にされていると思います。

──状況を変えるには?

患者やその家族が声を上げるしかないでしょう。部外者の私がいくら声を上げても「極端な例だ」と言われてしまう。無力感があるのかもしれないが、社会にいちばん響くのは彼ら彼女らの声です。医療にめちゃくちゃにされた患者はそれどころじゃないでしょう。それでも声を上げる必要がある。

精神科の診断基準は、その症状によって本人の社会生活に著しい影響があるかを必ず問題にしています。要は本人が困っていなければ病気ではないのです。発達障害で顕著ですが、変わった人がいて困っているのは周囲の人ではないのか。社会の受け入れ方次第で患者自体が減ると思います。

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