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2018.07.18

時給激安「パート主婦」はなぜ値切られるのか|結局「カフェラテ」を買う気にはなれない


パートを始めたものの、今後は別の葛藤が…(写真:TeerawatWinyarat/iStock)

パートを始めたものの、今後は別の葛藤が…(写真:TeerawatWinyarat/iStock)

新聞記者を辞めた後、会社員と女性活躍に関する発信活動、さらに大学院生と3足のわらじを履きながらバリバリ働いてきた中野円佳さん。ところが2017年、夫の海外転勤により、思いがけず縁遠かった専業主婦生活にどっぷり浸かることに。
そこから見えてきた「専業主婦」という存在、そして「専業主婦前提社会」の実態とそれへの疑問を問い掛けます。

前回記事で、「自分で稼いだおカネで、カフェラテを飲みたい」と書いたのだが、今年に入って私は、シンガポールで、帯同ビザでも就労許可が下りるパート仕事を始めた。

前回記事 ※外部サイトに遷移します

日系企業ではあるがシンガポール人の社員もいて、シンガポールで働くのがどんな雰囲気なのか見てみたかったし、何より自宅でひとりリモートワークだけしていると息が詰まる。「出勤」していく夫をうらやましく思い、私も誰かと一緒に働きたい!と思い、求人に応募したのだ。

結局、カフェラテは「買えない」

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これまでも駐在妻をパートに雇ってきた会社で、とても理解がある会社だ。英語を使ういい機会にもなるし、これで不定期すぎるフリーランスの仕事を補うこともできる。久しぶりの「オフィス」にほくほくと通い始めて、そして、すぐに気がついた。

時給でパート仕事をすると、時給の半分くらいがあっという間に吹っ飛ぶカフェラテなど、とても飲む気にならないということに。

週2回からOK、1日3時間からOKといった「主婦向け」の柔軟な勤務体制はとてもありがたい。子どもの学校や幼稚園の帰る時間に合わせられ、長期休暇にも対応してくれる。その一方で、1日3時間、時給1000円程度で働くと、ちょっと豪華なランチに行けば、下手をするとほとんど1日分の給与が吹っ飛んでしまう。

カフェラテは飲まなくなる、ランチにも行かなくなる(ホーカーで3~4シンガポールドルでチキンライスや麺が食べられる)。シンガポールでは日本よりかなり安いタクシーにも乗らなくなる。時給というのは、やはりその人の行動にかなり影響する。ちなみに国全体の消費にも影響するだろう。

私を雇ってくれた会社は結局、業務の専門性とこちらの経験に理解を示してくれ、時給制から成果報酬制に変えてくれた。でも、私のケースは、翻訳・ライティングという仕事内容がわかりやすい分野で、外注した場合との値段との比較などもしやすいからできたことかもしれない。

主婦パートは「低く」みられる

前回記事では、経済的自立のない駐在妻・専業主婦の不安な状況について書いた。私は「海外×キャリア×ママサロン」という、海外で子育てをしながらキャリアも模索したい女性たちのコミュニティを運営していて、悩み共有や情報交換をしている。

前回記事 ※外部サイトに遷移します

これまで、ビザなどで働けない駐在妻や小さい子どもがいて、預けたくても預けられずに専業主婦をしている人は、仕事ができなくてモヤモヤしているのだと思っていた。実際そういうケースも多い。しかし、パートで働いている主婦に話を聞きはじめると、働けている人も十分、いやもしかしたら働いていない人以上にモヤモヤしているということがわかってきた。

多くのケースで、それなりの給料でそれなりのキャリアを築いていた方であっても、かなり水準を下げてパートしている。それまでのキャリアや経験とか、出している成果がまったく評価されず、パートであるというだけの理由で賃金が低く、格下にみられる。そのことに皆悶々としていた。

なぜそれでも、状況を変えられないのか。それは、ひとえに制約があるからだ。子どもが学校から帰ってくる時間内での仕事をしたいから。長期休みに対応してもらえるのはありがたいから。

家族のケアをメインで担う人が、残業ができないことによって責任の軽い仕事に動かされてしまう、いわゆるマミートラック現象は、日本の会社でも起こっている。私も拙著『「育休世代」のジレンマ』はじめ、さまざまな場所で指摘してきた。ただ、それは正社員の中の配置の話だ。

『「育休世代」のジレンマ』 ※外部サイトに遷移します

長い目で見たときに昇進や成長機会につながるか、という問題であったのに対して、パート主婦たちは働き先を見つける段階で、かつ目の前の問題として「時給」が立ちはだかる。

時給が低いだけではない。駐在妻でパートで働いている人に話を聞くと、選択肢が限られることから、まったく違う業界に飛び込み、新人さながらに四苦八苦している人も多い。中には若い人に「こんなことも知らないの?」と言われる、「サポート業務だけしてくれればいいよ」といった態度を取られる、などの経験に憤慨している人もいた。自分のそれまでの経歴が全く評価されない、あるいは経歴を生かした成果が出せていてもそれに見合った待遇を受けられないというわけだ。

それでも、やはりある程度、柔軟な勤務体系を認めてもらっているという遠慮や弱みがあり、通常は声をあげられずにいる。

こういった企業は「駐在妻の働きたいという気持ちを搾取している」というふうに言う人もいた。

子育てなどをほかの人に頼むことができれば働く時間は伸ばせるかもしれない。しかし、鶏と卵ではあるが、待遇が低いと、住み込みのメイドさんを雇ってフルタイムで働こうという気にもなれない。メイドさんを雇うにはなんだかんだで税金など入れれば、筆者の住むシンガポールでは月6~8万円かかり、その費用を捻出するほどの価値があるか?と思ってしまう人も多いようだ。

なぜ主婦の時給は低いのか

もちろん主婦労働の待遇が悪いのは、今に始まったことではない。長年、日本の女性の就労については、出産などで一度仕事を辞めると再就職先が非常に限られることが、高学歴女性が主婦になる理由として研究されてきている。

薄井シンシアさんは著書『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』の中で、真剣に覚悟を持って専業主婦というキャリアを務めていれば様々なスキルが身についていて、その後就いた仕事で実績を出しているにも関わらず、ブランクと年齢が就職や評価を阻むと指摘している。

そもそもなぜ主婦の時給は低いのだろうか。なぜブランクと年齢で差別されるのだろうか。働き方改革の一連の法整備で、同一労働同一賃金の問題も取りざたされているが、日本は正規と非正規の賃金格差が大きい。

労働政策に詳しい研究者である濱口桂一郎氏は、過去の通達などを分析し、たとえば失業保険について、非正規については「臨時内職的に雇用されるもの、例へば家庭の婦女子、アルバイト学生等であって」「即ち家計補助的、又は学資の一部を賄うにすぎないもの」は「労働者と認めがたく、又失業者となるおそれがな」いので、「失業保険の被保険者としないこと」と定められていたと述べる(1950年の「通達」に記載されているのを濱口桂一郎氏が発掘)

2010年改正でようやく適用が条件つきで拡大されているが、もともと非正規雇用というものが、つまりは正社員の夫や親の稼ぎがあることを前提にした主婦か学生の小遣い稼ぎにすぎず、保護する必要がない立場とされていたことがわかる。

また、所得税の配偶者控除(妻の年収が103万円以下の場合、妻は所得税を払う必要がなく、夫の課税対象所得から38万円を控除できる)や社会保障制度も、当然、賃金格差に影響を及ぼしている。

2010年に実施された労働政策研修・研究機構の「短時間労働者実態調査」によると、年収103万円を超えそうになった場合に就労調整をしていると回答している人は25%。この制度によって、厚生労働省は2002年時点でパート全体の賃金が9%押し下げられていると分析している〔大沢真知子『21世紀の女性と仕事』(左右社、2018年)など参照〕。

130万円を超えると夫の扶養を外れ、厚生年金や健康保険などの社会保険に自分で加入する対象となり、社会保険料を負担することになる。2016年10月からは一部、年収106万円以上で社会保険料が課されることになっている。ここでも基本的にはパート主婦は夫に扶養されるものである前提であることが分かる。

しかし、非婚化、離婚の増加、正社員雇用の減少などで、女性の世帯主も増え、男性の非正規雇用も増え、状況は大きく変わっている。それでは生活できない人が多くなっている。そして、同一労働同一賃金。働く時間が短い人とそうでない人が同じ仕事をしたのだったら、それはやはり同じように評価されてしかるべきだ。

もちろん正社員が背負っているものの大きさはあるので、たとえば週3回しか働けないのであれば、週5日働いている正社員の5分の3出すべきとは思わない。いつ夫の駐在が終わり、帰国してしまうかわからない駐在妻を現地採用や正社員とまったく同じ待遇にしてくれとも言わない。

そしてブランクが実際に業務に影響を及ぼしているのであれば、スキルを身につけるまでの試用期間は低賃金でもいいかもしれない。でも、成果が出せたらそれなりに評価してもらえるという展望があれば、働く側も努力するだろう。

働く駐在妻のコミュニティにいると、ともすると女性側からも「気の持ちよう」という見方が出てくる。つまり、「給料は少なくても、幅を広げる良い機会だから……」とか、「少しでも大人と話せるのがうれしいから、お給料は二の次」だとか、給料以外のところで得るものがあるとポジティブに受け止めよう!という言説が出てくる。

ポジティブシンキングは大事だとは思う。環境に謙虚に感謝することも重要だとは思う。でも、 価値を上げ、その対価を得ることができれば、企業にとっても働き手にとってもプラスな関係を築くことだってできる。それがないと、 「どうせこれくらいの時給しかもらっていないんだから」と、効率を上げるインセンティブも沸かない。そしてきちんと対価を求めていくことは、前回までに書いた「家事負担の女性偏重」の解決にも重要だと思う

女性の収入を上げる必要がある

日本人男性の家事・育児時間は国際的にも少ない。その要因としては、会社での労働時間が長すぎることなどが論じられている。しかし、女性側の「自分がやらなくちゃ」「自分はそこ(家事育児)で価値を出している」認知に訴えかけることも必要ではないか。それには、やはり子どもがいても女性の収入がきちんと上がっていくことが必要だと思う。

ある総合商社に同期入社で結婚した夫婦を取材したときのこと。彼らはまったく同じ初任給でスタートし、同じように昇給していったのだが、子どもができた途端に差が出てきた。まず妻が育休で1年休んだことによって年功序列の序列が1列下がった。そして育児分担が妻に偏ったことで、妻ばかりが子どものお迎えに行き、妻の手取りはさらに下がった。

加えて妻は将来の昇進可能性も下がったようにみえているために、夫が育児を担う機会費用はますます高くなり、「妻がやったほうが合理的」という状態になっていったという。こうして、妻の得手不得手や意志にかかわらず、ますます家事育児分担は妻に偏っていった。

もちろん、その役割分担がお互いにしっくりきている家庭までも変えるべきとは言わない。人生の一時期、役割があったり、それが入れ替わったりすることもあるだろう。しかし、夫婦間での家事分担を本気でやりたければ、女性の収入アップや経済的自立の確保が必要だ。それがない限り、女性たちは低い給料でそれに応じた家事分担をしないといけない気分になり、夫に抗議できず、家庭内でも弱い立場に置かれやすいという構造は断ち切れない。

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「パート妻」は年収150万円稼ぐほうが幸せだ

不倫夫と別れた専業主婦が直面する「貧困」

提供元:時給激安「パート主婦」はなぜ値切られるのか|東洋経済オンライン

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