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2017.12.29

「乳房と別れを告げた女性」が選んだ生き方│幸せを手に入れた矢先の「乳がん宣告」


乳がんになると生き方や人生観、家族との関係はどのように変わるのか(撮影:尾形文繁)

乳がんになると生き方や人生観、家族との関係はどのように変わるのか(撮影:尾形文繁)

もし、乳がんになって乳房を摘出することになったら――。今や女性の12人に1人が乳がんになるといわれているだけに、女性であればその可能性を考えなくてはならない。

女性マネジメントのプロで、起業家の川崎貴子氏も、2016年10月に乳がんが発覚し、右乳房の全摘手術を受けた1人だ。仕事も家庭も順風満帆、40代にしてついに幸せを手に入れた矢先の「乳がん宣告」だった。

乳房の温存も不可能ではないと担当医に示唆された川崎氏だが、再発可能性などを考慮して迷わず全摘を選択。その後、乳房を「再建」し、現在もホルモン治療を行いながら、バリバリ働いている。40年以上生活をともにした「おっぱい」に未練はなかったのか。そして、がんによって家族との関係や人生観はどう変わったのか。乳房再建ってどんな感じなのか……。

乳がん発覚から術後の治療までを綴ったエッセイ『我がおっぱいに未練なし』を上梓した川崎氏と、乳房再建に積極的に取り組むセルポートクリニック横浜院長で医学博士の辻直子氏との対談を前後編でお届けする。

『我がおっぱいに未練なし』 ※外部サイトに遷移します

人間ドックに3、4年行ってなかった

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川崎 貴子(かわさき たかこ)/1972年生まれ。埼玉県出身。リントス代表取締役。1997年にジョヤンテを設立後、女性に特化した人材紹介業、教育事業、女性活用コンサルティング事業を展開。女性誌での執筆活動や講演多数。現在はninoya取締役、およびベランダ取締役として、共働き推奨の婚活サイト「キャリ婚」を立ち上げ、婚活結社「魔女のサバト」も主宰。「女性マネジメントのプロ」「黒魔女」の異名を取る。(撮影:尾形文繁)

川崎貴子氏(以下、川崎):乳がんだと発覚したのは、当時4歳の次女が、授乳が終わってもうだいぶ経つのに急に右のおっぱいだけ寝る前に吸うようになったことですね。それで「おかしいな」と思っていたら、乳腺炎のようなしこりが見つかった。

すぐにドックを予約して全身を診てもらったら、間違いなくしこりがある。大きい病院に紹介状を書いてもらってがんだとわかりました。ひと月くらいの間のできごとです。それまで忙しくて人間ドックに3、4年行ってなかったんですよね。

――手術まで決断がとても早いことに驚きました。

川崎:もともと悩まない性格というのもあるんですけど、いろんなことが重なっている時期で、正直なところ「悩んでいる時間がなかった」ということが大きい。会社経営、新規事業、執筆、講演。保育園児の次女はまだ情緒が安定しているとは言い難いし、長女は思春期ですぐ何かやらかす。

川崎:スケジュールがいっぱいいっぱいで、手術前に入院して1日ぽっかり空いてる時間に「やっと眠れた」というくらい。それに、何日経ったら致命的になるかもわからない。なるべく早めがいいだろうと、漠然と素人考えであったので、先生から「全摘のほうが、再発率が低い」と提案されたらすぐ決めたという感じですね。

辻直子氏(以下、辻):私の患者さんにもパパッと決める方もいらっしゃるし、そうでない方もいらっしゃいます。病状的に「全摘」と言われると、もう悩む余地がないですよね。ただ、「全摘と温存、どちらでもいいよ」と言われると、選択肢がある分、悩まれる傾向にあります。また、再建するかどうか、再建するならどのような方法で行うかで悩む方も多いですね。

川崎:外科手術はやはりなるべく早いほうがいいんですか?

辻:乳がんは、最初のがん細胞が発生してから、検診でわかるようなしこりになるまでに10年ぐらいかかると言われています。したがって1、2カ月、急いでも変わらないというのが実情です。「手術枠がいっぱいなので、1カ月待ってください」と言われて皆さん不安に思われるんですけど、大勢には影響がない。ただ、がんが急に進行する時期もあるので、そういう場合は急いだほうがいいですね。

「乳がん」といっても症状はさまざま

川崎:じゃあ、私とがんはもう結構長い付き合いだったんですね。

辻:そうなんです。授乳中もすでにあったと思いますが、授乳には関係ありません。

川崎:転移というのは、なぜ起きるんですか?

辻:がんはどんどん増える細胞の塊なので、最初のうちは乳腺の中で増えるけれども、壁を越えて血管やリンパなどにがん細胞が食い込んでしまうと、あちこちに運ばれて定着してまた増える。これが転移です。全身を巡っても定着しなければ転移はありません。

川崎:私の場合、転移がなかったことが幸運でした。

辻:ただ、一定以上進行したがんは、転移がなくてももう全身を回っている「浸潤がん」という状態です。切って病理検査をすると浸潤がんかどうかわかるので、全身に対する薬の治療とかをすることが多いです。もちろん、全身回っていても転移せずに治ってしまう人もいる。

川崎:そのあたりが難しくって、一口に「乳がん」と言っても、とにかくみんな症状が違うんですよ。他人の経験が参考にできないこともいっぱいある。そこは本を出版するときに非常に気を使いました。

「こうやったら治る」みたいな本もサイトもいっぱいありますよね(笑)。やはり自分のがんは、ちゃんと検査してもらって、「今の医学ではこれが統計的に成功している」「このがんはこの治療で寛解した人が何%いる」といった客観的な数字を指針にしていました。

辻:民間療法に行く人も多いですからね。

「次の娘の誕生日にいないかもしれない」

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辻 直子(つじ なおこ)/セルポートクリニック横浜院長。形成外科専門医。1998年信州大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院形成外科に入局。福島県立医科大学付属病院形成外科などを経て、2006年杏林大学医学部付属病院形成外科助教を務めた後、2011年から現職(撮影:尾形文繁)

川崎:がんを発表してから、「検診しましょう」と叫ぶと、「◯◯でがんが消えた」といった記事のリンクを送ってくる人がたくさんいるんですよ。いろんなお水を勧められたり、「◯◯を食べろ」と言われたり。

辻:まあ、“健康食品”としてはいいものもあるかもしれないですけど、スタンダードな治療をせずに、それだけに頼るのは危険ですね。

――乳がんによって生き方が変わったということはありますか。

川崎:いや、ほんとに日常的というか、私の場合の乳がんは痛みもないし、抗がん剤をやってるわけじゃないから副作用があるわけでもない。逆に、つわりのほうがつらかったぐらいで、何も不自由がない。それにもう40代ということもありますし、「まあ病気にもなる年だよな」と思ったくらいで、「なんで私が?」というのは一切ありませんでした。

辻:潔い(笑)。

川崎:おばが乳がんを患ったことがあり、子どものときに手術跡を見たことがあったんですが、えぐるように取ってあって、子どもながらに結構ショックだったんですね。ところが、自分の時は外科手術と同時に乳房再建の事前処置をしてくれる病院だったので、非常にいいな、合理的だな、と。

術後、傷はさすがにすごかったですけど、なんとなく膨らみはあったので、おばのときのようなショックもありませんでした。ただ、私の場合、ホルモン治療をしなければならず、そうすると体重が増えやすい。だけど「太ると再発の可能性が高くなる」と言われてまして。

かといって、食べないダイエットをすると免疫も下がっちゃうので、運動するしかない。今はウォーキングをして、ジムにも週2で通っています。運動なんか大っ嫌いだったのに、われながら大きな変化だと思います。

――人生観やものの考え方に変化はありますか。

川崎:毎日違う仕事をして、違う刺激を得る生き方をよしとしてたんですけど、生存率だの何だのという話を最初に聞いたときは、「あっ、もしかしたら次の娘たちの誕生日にいないかもしれない」と思いました。今日と同じ明日、今日と同じ来年が来てほしいと思ったのは、今までの私と180度違う考え方だと思います。

辻:1度はやはりがんって言われると、「死ぬのかな?」「家族どうしよう」「仕事どうしよう」と考えますよね、どんな方でも。ご家族はどうでしたか。

川崎:夫は、「もし妻が死んじゃったら」というシミュレーションを1人でたくさんしたようで、前より……なんて言うんでしょうか、大人になったなというか……スイマセン、8歳年下なので、普段の上から目線が出てしまいましたけど(笑)。

私ががんになる前は、子どもが出ていって孫ができて、といった、普通の老後をモヤーッと描いていたみたいなんですけど、人生のシナリオが書き換えられるかもしれないと気づいて、夫も肝を冷やしたんでしょうね。今は一緒にスポーツクラブに入会して、ストレッチを教えてくれたり、マッサージをしてくれたりしています。

娘たちは、手術前後のときはナーバスになっていましたが、この1年、私の仕事ぶりも変わらないし、痛がってたり悩んでたりということもないので、今は以前と変わっていません。ギザギザしたおっぱいにも、乳首がないことにもすぐ慣れました。「えっ? ママのおっぱいって、ずっとそうじゃなかったっけ」ぐらいの。「違うわよ。あんたたち吸ってたやん」って。

「がん離婚」はありえるのか

――あるネットの記事で、妻ががんになったら浮気をする夫がいる、“がん離婚”が増えているという記事がありました。先生はいろいろなケースを見られていてどうですか?

辻:どうなんですかね。患者さん全員のアンケートを取ったわけではありませんが、あまり途中で離婚された方はいらっしゃらないですね。そのうち1人の離婚は、やはりがんが原因なのか気になってそれとなく理由を聞いたら、「実はモラハラがひどくて耐えていたけど、乳房再建もしたし、新しい自分になろうと思って別れてやりました!」という感じで前向きでした。

逆に、30代、40代前半ぐらいだと独身の方も結構多くて、まずはがんの治療が最優先ではありますが、術後、落ち着くと婚活や結婚、出産を気にされる方は多いですね。がんが理由かはわかりませんが、ずっと独身の方もいらっしゃれば、治療後結婚した方もいるので、結婚や離婚を決定する原因になるとは私は思いませんが。

川崎:結婚したあとに、「なんだ、こんな小っちゃいやつだったのか」「口だけの優しさだったのか」と気づいて離婚することがあるじゃないですか。最初から乳がんとわかって結婚したとなると、その男性の器の大きさや優しさがわかります。

乳がんだからモテるということはありませんが、たった1人の信頼できるパートナーを見つけるということであれば、逆にアドバンテージではないか、と私は思います。自分自身の変化を振り返っても、乳がんは決してマイナスな側面ばかりではないと実感しています。

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提供元:「乳房と別れを告げた女性」が選んだ生き方│東洋経済オンライン

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